リゾート地でカミングアウトする女達-その5
珊瑚礁の島に移住した男がはじめた小さなショットバー。
そこに立ち寄る女が旅の解放感からか、赤裸々なセックスをカミングアウトする。
作家名:淫夢
文字数:約2270文字
リゾバ看護師のリゾラバ
リゾートバイトというのがずいぶん前からあったようで、旅行先でアルバイトをしながら宿泊費と食費と遊興費を稼ぎながら全国、少数派だが世界を旅して回るのだ。
以前はリゾート地のシーズン、例えば冬季のスキー場や夏季の海辺や避暑地でかきいれ時のホテル、レストラン、ラウンジやキャバクラなどが多く、寮と三食付きだから遊びも楽しめるので、特に女性の間で流行り出したようだ。
この島でも、マジメな若者はサトウキビの収穫時期に毎年来ているようだし、島に2軒あるラウンジにも、世馴れた?若い女性が常夏、常春だからと、1年中入れ替わり立ち替わり来ているようだ。
近年は移住を検討している若い人たちを対象に、地方自治体ぐるみで地元の産業の担い手を増やそうという取り組みも多いと聞く。
また、地方の山間部や離島の医療の人員不足を補うのに一役買っているのが派遣の看護師である。
たいてい半年契約のようで、契約満了時に移動するのもいれば、気に入って延長したり、恋人が出来て住み付き、妊娠して結婚した女性がこの島にも数人いる。
昨年末、連夜の暴飲がたたり、不覚にも肺炎を患って入院した際に、仲良くなった朋美もそんな看護師だった。
「お邪魔しまーす」
ドアが開いて屈託のないスッピンの整った顔を覗かせた。
カウンターに座らせ、生ビールで乾杯する。
10日ほどで退院する際に「退院祝い兼ねてちゃんと療養してるか自宅往診したげる」と言ったので「奢る」と伝えていた。
もうすぐアラサーと言っていたが、華奢で上品な顔立ちからか、男性経験はそんなに多くなさそうだった。1時間ほど飲んで、「高くなさそうだから、来週夜勤明けに夕方まで寝てから来ます。今度はちゃんと払いますね」と言って帰った。
セクシャルな関係になるかどうかは別にして、久しぶりに感じの良い女性と親しくなれそうで年甲斐もなく心が弾んだ。
約束した日の夜、朋美がやって来た。
先日はティシャツにジーンズ、ストレートの長い髪を垂らしていたから健康的に見えたが、今夜は黒のタイトなワンピースで髪をアップにしていてセクシーだった。
巨乳ではないが、容の良さそうな乳房の谷間が少し覘いていた。
「マスターが飲んでるのは何?」
「焼酎の野菜ジュース割」
「美味しいの?」
「味覚なんて人それぞれ」
「一口飲ませて」
朋美が私の飲みかけを一口飲んだ。
「身体に良さそう。私もこれ」
少し薄目にしてやる。
自宅は東京で派遣看護師をやり出して4年、この島が6箇所目だと話した。
後ひと月で契約満了になるが、この島が気に入ったから更新するつもりだと言った。
もう半年島にいるなら、もしかして。
下心を抑え、ドリンクのお代わりを作ってやる。
3杯目だ。
私は焼酎を1:1で野菜ジュース割にしていて、彼女のは1:2にしてやっていたが飲むペースが早い。
酔っ払うなよ。
出来ないじゃないか。
泥酔して全裸になって抱き着いて来た女性との悪夢を想い出す。
いや、少しくらいは酔っ払った方が。
と表情を覗うと案の定、眼の周辺が火照っていた。
「そんなにあちこち行ってたら恋人出来ねえだろ?」
ちょっと仕掛けてみた。
「いますよ。東京と⚪︎⚪︎⚪︎島と⚪︎⚪︎海岸に」
!!
「な、何だよ、それ」
朋美に対する清楚なイメージと淡い期待が音を立てて崩れ落ちた。
「だってぇ、リゾート地で仕事だけって寂しすぎるもん。他の子もみんな行く先々で恋人いるし。だから半年ずつ回ってるの。この島気に入ったから更新したいんだけど、カレシ未だ出来ないから、お悩み中」
「カレシって、セックスするんだろう?」
「もち、しますよ。東京のカレシは淡泊だからもうやめようかなって。⚪︎⚪︎⚪︎島のカレシはスキューバのインストラクターで逞しくてカッコイイし、セックスも激しいの。⚪︎⚪︎海岸のカレシは病院の副院長でチョイ変態さんなの。何時も産婦人科の診察器具使って。なんかクセになっちゃった」
完全に酔っ払った朋美が、熱い喘ぎを小さく洩らしながら露骨に語る。
そのセックスを想像して、私もしてみたいと想ったり、負けそうに感じたりする。
「で、この島では?」
崩れ落ちそうな期待を修復する。
「何人か誘われたけどピンと来なくて。マスターは奥様と10年別居してるって言ってましたよね?恋人は?」
来るか?!
「幸か不幸かいない」
朋美が意味ありげにほほ笑んだ。
「私みたいな女は?タイプじゃない?」
「好みのタイプではある」
この島での朋美のリゾートラバー。
悪くないな。
「良かった」
「何が「良かった」んだ?」
「マスターならしても良いかな?って。今週中に契約更新するか決めるの。来週の月曜に報告に来るね」
彼女はそう言い残して、会計して帰って行った。
おい!
それなら、この状況でセックスしないまでも、せめて帰り際にハグするとか、キスするとか。
時間が長いのなんのって、久しぶりにときめいて月曜を待った。
そして夕方開店準備をしていた私の前に朋美が炊飯器を持って現れた。
「マスター、パックライス食べてるって言ってたでしょう。もう要らないからあげる」
と言う事は?
「やっぱ東京に帰る事にしたの」
やはり、朋美に対する慕情が音を立てて崩れ落ちた。
「そうか。残念だな」
必死でショックを顔に出さないように堪える。
「この島が恋しくなったら帰って来るね。この炊飯器、私だと想って使ってね」
炊飯器を両手に持った私の頬に軽く唇を触れると風のようにいなくなった。
今夜一晩だけでも良いけどな。
あれから1年以上経った。
半年契約だと言ったから、あれ以来3箇所目に変わったはずだ。
貰った炊飯器で何十回もご飯を炊いた。
「私だと想って」だと?
炊飯器となんてセックス出来ないじゃないか!
ちくしょう!
(続く)
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