浅川健太郎の告白-第18話
私、浅川(あさかわ)健太郎(けんたろう)は46歳。会社は中堅だが次長。一応名前の通った私立大学卒だが、自慢する程ではない。
こんな私にも、いくつかの女性遍歴がある。
内緒にして頂くことを条件に、こっそり貴女だけにお話するので、笑わずに最後までお聞き下さい。
作家名:バロン椿
文字数:約2090文字(第18話)
管理番号:k143
コンドームを付けるなんて頭からすっ飛び、その勢いのまま、チンポを割れ目に押し当て、グイッと中に挿入したら、彼女は「あぅぅ……」としがみついてきた。
しっかりと互いの性器が結びついた私たちはそのままじっとしていた。これまでの遊びのセックスとは違う、夫婦となる相手のセックスは幸せというか、何とも言えない気持ち。今思い出しても、素晴らしかった。翌朝まで、5回はしたと思う。
***
翌年2月、私たちは式を挙げ、2Kの安アパートで新婚生活を始めた。
というのも、「どうだ、これは」、「いい人がいるのよ」と、私も妻も持ち込まれる見合い話から逃げるように結婚したのだから、蓄えが十分ではなかった。本来なら社宅に住めばいいのだが、社宅暮らしは仕事の延長と同じと、私も妻も嫌だったから贅沢は言えない。安アパートでも仕方がなかった。
でも困ったのは、薄い壁だった。
妻は感度がいいというか、あの声が大きい。それで、声が出そうになると、布団や枕、自分の手を口におしつける。止めればいいのだが、その様子がとても可愛くて、私は逆にもっと妻を感じさせて淫らな声を出させてやりたいという気持ちが湧いてきてしまう。
それで、クリトリスを執拗に舐めたり、腰を激しく振ってしまう。そんな私を妻は「いじわる」と言うが、妻も妻で、「もっと、もっとして」と言わんばかりに私に腰を押しつけてくる。
そんな翌朝、「仲が良くていいわね」とお隣さんに笑われたことが度々だった。
スナックのママと
そんなことで始まった結婚生活。2年目に娘が、4年目に息子が生まれた。妻は「あなたは仕事」と言って、子育ても全て引き受けてくれた。感謝しかない。その妻の言葉通りに私は仕事に全力投球して、順調に昇進し、まあ、幸せである。
しかし、男というものこれだけではない。
言い訳するわけではないが、営業という仕事柄、接待で女性と接することが多い。当然、いや、当然と言ってはいけないが、遊んではいないとは言えない。でも、妻のことを考えれば、風俗なんかで一夜限りのことばかりだった。
ところが、38歳の時、接待に使っていたスナックのママ、小森(こもり)雪子(ゆきこ)と、一夜限りではない深い仲になってしまった。
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当時、私は営業部でチーフとして5人の部下を抱えており、かつて自分が鍛えられたように、
「おい、契約は大丈夫だろうな?」
「あ、はい」
「『あ、はい』じゃねえよ。『心配ありません』とか、はっきりしろよ」
といった具合に、若手社員の尻を叩いていた。
そして、これは契約の大詰めだなと思う時は、「部長、お願いします」とか、「次長、若手が頑張っています。是非、一押しを」なんて上司の部長、次長を交渉の場、時には接待にもご登場願って、話をまとめ上げる。
これは、私が入社2年目の鎌田屋さんとの取引を取って自信を付けた時に、上司がしてくれた手法だった。
そんな日々、若手社員のA君が手掛けていた梓酒類との取引契約が大詰めで、私は榎本次長と取引先の社長をお連れして、冷房のきいた東京ドームの特別観覧席でジャイアンツ戦観戦の後、東京都文京区白山にあるスナック「小雪」で喉を潤す接待をしていた。
「運転手さん、今、出てきますから」
「分かりました」
時刻は午後11時を過ぎ、私はハイヤーの運転手に声をかけた。
それとほぼ同時、スナックのドアが開き、今夜の大事なお客様、金子社長と、榎本次長がそこから出てきた。
「社長、お疲れ様でした」
「いやあ、今夜はすっかりご馳走になっちゃって」
「何を仰います。二次会までお付き合い頂き、こちらの方こそお礼申し上げなくてはいけません。さあ、お車が待っています」
「何から何まで、迷惑かけちゃうね」
そして、金子社長がハイヤーの後部座席に乗り込むと、榎本次長と私は、「お気をつけてお帰り下さい」と頭を下げて見送った。
「まあ、これでA君の努力も実を結ぶか」
榎本次長はご機嫌で、「それじゃあ、俺も帰るから、支払いの方、頼んだぞ」と通りかかったタクシーを捕まえて、帰っていった。
きっかけは飲み直し
このスナック「小雪」は、アメリカに栄転した私の前任者から「ドームから近いから二次会にはいいぞ」と紹介されたもので、私も度々利用していた。
「あら、榎本さんは?」
「はい、今、帰りました」
「そう、お疲れ様」
店内に戻ると、ママが「ビールでも飲もうかしら?」とカウンターを出て、スツールに座って待っていた。彼女は40歳後半のようだが、銀座のクラブにいたらしく、女優の岩下志麻さんに似た美人。客の中にも「ママにグッときちゃうね」とニヤつく者も多いようだ。
夜も遅いので、断ろうとしたが、「少しくらいいいじゃない。付き合ってよ」と、ママが足を組み直すとチャイナドレスのスリットが割れ、太腿の上の方、白い三角が見えて、慌てて「あ、いや、私は」という言葉を飲み込み、「そ、そうだね」とソファーに座り直した。
「浅川ちゃん、水割りでいいかしら?」
「うん、いいねえ」
既にテーブルにはウィスキー、水、氷にグラスが用意してある。
「はい、それでは、カンパイ」
「ありがとうございます」
ママは一口だが、私はグイッと飲み干した。
(続く)
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