協奏曲-第2話 3040文字 バロン椿

協奏曲-第2話

40歳半ばのピアノ教室の主宰者、水元(みずもと)啓子(けいこ)。白いブラウスにネイビーのスカート、薄化粧で、肩まで伸びた髪を無造作に後ろで束ねた姿は、音楽家というよりも、学習塾の教師のようだ。
彼女には20歳近く年の離れた、新進気鋭のピアニスト、吉野(よしの)幸一(こういち)という恋人がいる。
ステージ上では「鍵盤の魔術師」と言われる彼もベッドの上では啓子と「協奏曲」を奏でるが、二人の馴れ初めは何か?少し時を戻して振り返ってみよう。

作家名:バロン椿
文字数:約3040文字(第2話)
管理番号:k113

仄かな恋心

年が明け、幸一は16歳の誕生日を迎えた。
ピアノ教室で開かれた誕生日会では、他の同年代のレッスン生から「幸一君、お誕生日おめでとう」と、さらに「お兄ちゃん、おめでとう」と小中学生らからもお祝いの言葉を頂いた。

12月、小さなコンテストではあるが、優勝し、
「いいじゃないか、あの子」
「そうね。力強くて、それでいてテンポがいい。素晴らしいわ」
と審査員からこんな声が上がり、知り合いの雑誌記者からは、「水元さん、どこで見つけたの?」と聞かれるようになった彼は、子供たちにとって憧れの存在。

今年、高校3年生になる葉山弥生も熱心にレッスンに通っているが、彼女の目標は音楽教師になること。「おめでとう。これからも頑張ってね」とケーキを頬張るが、啓子だけは「ダメよ、油断したら。9月の全国コンクールに向け、地区予選会は6月よ」と厳しいことを言う。しかし、彼女もこの日ばかりは髪を美容院で整え、やや濃いめの化粧はローズのドレスによく似合う。

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そして、「お祝いの曲でも弾こうかしら」とピアノの前に座ると、騒いでいた子供たちは「シー」と互いに指を唇に当て、弥生もケーキ皿をテーブルに置いた。
静まり返った部屋の中、「ボン」と啓子の指が軽く鍵盤に触れ、音が奏でられると、「ベートーベンの『エリーゼのために』だよ」と囁く子供、「僕も知ってる」、「私、好きなの」と、熱心に聞き入り、弥生も頭の中で譜面を追っていたが、幸一は啓子の顔ばかり見ている。

(あ、やっぱり、この子……)
フフっと笑った弥生はすかさず、「先生も幸一君が大好きみたい」と冷やかすと、「ぼ、僕は……」と途端に慌てだした。
一つ年上の弥生はビアノでは幸一にとても敵わないが、この手のことではずっと大人。「恥ずかしがることないわよ、本当のことだから。私は応援する、幸一君と先生のことを」と付け加えると、幸一は顔が真っ赤になってしまった。
全てをかけ、ビアノに打ち込む幸一にとって啓子は憧れの女性。すっかり彼女に恋をしていた。初恋だ。

雪の悪戯

ピアノ教室は子供たちの明るい笑顔に溢れ、幸一も慢心することなく、レッスンに打ち込み、「いいわよ」と啓子に褒められことが多くなった。
このように、全てが順調に進んでいたのだが、2月、思わぬ出来事が二人を弄ぶ。
「関東地方に大雪注意報が出されています。明日の明け方まで降り続くでしょう」

朝から降り続く雪は午後から勢いを増し、テレビのニュースではアナウンサーがこのように繰り返し伝えていた。
いつもなら、「先生、お願いします」と生徒が次々とやって来るのだが、この天気では、それは無理。「今日、終りね」と、啓子は教本を閉じ、片付けを始めた。

時刻は午後6時になる。吹き着ける風の音と、ベランダを埋めていく雪の白さを見るだけでも、震えてしまうが、エアコンが効いている室内は、それとは無縁。ブラウスにフレアスカートという軽装の啓子は、アンテナが凍りついたのか、画像が乱れてきたことに、「あら、大変」と改めて、外の厳しさを感じていたが、ちょうど、その時、ピンポン、ピンポンとインターフォンが鳴った。

誰かしら?とテレビモニターを見ると、雪ダルマのようなものが写し出されていた。
外の廊下にも雪が吹き溜まっているのかしら?とドアチェーンを付けたまま、外の様子が分かる程度にほんの少しだけ開けたが、ヒューっと凍るような風が吹き込んでくる。
思わず、「寒い……」と首をすくめた啓子は直ぐにドアを締めようとしたが、「僕です」と小さな声が聞こえた。

えっ、まさか、ともう一度ドアを開くと、そこには雪にまみれた幸一が立っていた。
「ど、どうしたの?」と慌ててチェ-ンを外してドアを開けると、幸一は「ピ、ピアノ、せ、先生に……ピ、ピ、ピ……」と震えて言葉にならない。「は、早く、中に」と啓子は彼を引き入れたが、顔色には血の気が無く、唇は赤みを失い、目は虚ろでガタガタと体の震えが止まらない。

驚いた啓子が「幸一君、しっかりして!」と両手で幸一の頬を必死に擦る。氷のように冷たいが、続けると、ようやく「う、うっ、寒い……」と声が出た。
一つクリアしたが、次は指。ピアニストにとって指は命。だから一刻の猶予もない。かじかんで真っ直ぐに伸びない指を、啓子は両手で包み、指一本一本を口に含んで温める。

「せ、先生……」と不安そうに見つめる幸一に、指をしゃぶる啓子が「大丈夫、大丈夫よ……」と微笑んでみせると、「うん」と僅かに頷いた。
室内はエアコンが効いて、温かく、凍りついていたコートやセーター、ズボンも雪が溶けてきたが、皮肉なことにそれが布地に染みこみ、下着までびっしょりと濡らし、「うぅぅ……」と、今度は、一旦温まった体を冷やしてしまい、再び体が震えてきた。

「さあ、脱いで」
「いや、でも」
幸一は恥かしがるが、躊躇っている場合ではない。「そんなの着ていたら、風邪を引いてしまうわよ」と剥ぎ取るようにセーターやズボン、それにシャツを無理やり脱がせると、「こっちよ」と浴室に連れて行った。

浴室で……

「さあ、そこに立って」とシャワーヘッドを持った啓子が震える幸一の肩に、背中に、胸にと湯をかける。
「温かい?」と顔を覗き込む啓子、「う、うん」と頷く幸一。次第に肌がピンクに色づき、それと共に、「ふぅぅ……」と一息つく彼の震えが止まってきた。

「良かった……」とホッとする啓子は跳ね返る湯で、ブラウスもスカートもびしょ濡れになっているが、「この子に何かあったらいけない」と無我夢中だったから、そんなことに気が回らない。しかし、勝手なもので、生気を取り戻した幸一は、濡れたブラウスが肌にピッタリと張り付き、ピンクのブラジャーがくっきりと浮かんでいる啓子の胸元に目がいく。

ビアノ一筋、真面目だと言っても、16歳はこういうことに一番関心がある年頃。たちまち、ぐっしょり濡れたブリーフの真ん中がモッコリと膨らんできた。
(えっ、ど、どうしたの……)
啓子は戸惑ったが、ハッとして慌てて胸元を押さえたが、それより先に「せ、先生」と幸一が迫ってきた。

セクシーコスプレ01

「ダ、ダメよ」と言うが、彼が抱き付くのを止められない。華奢で自分とさほど変わらない背丈だが、力が強く、「離して」と突き放そうとするが、狭い浴室だから、逃げ場がない。「す、好きです」と伸し掛かられると、「いや、いや、ダメよ」と身を捩るが、啓子は腰が崩れ、その上に重なった幸一と唇が触れてしまった。

「ダ、ダメ……」と啓子は腕を突っぱね、一度は離したが、「せ、先生……」と唇を突き出しながら顔を近づけられると、その重さに耐えられず、今度はしっかりと唇が合わさった。
それでも啓子は「あ、いや、いや……」と顔を背けようとしたが、組み伏せられているから自由が利かない。幸一は合わせた唇を離さず、チュッ、チュッ、チュッ……と貪るように吸い求める。

シャー、シャー、シャー……とシャワーの湯が床を打ち付ける音が響く中、啓子の体から次第に力が抜けていく。
「先生も幸一君が好きみたい」
誕生パーティの時、葉山弥生が幸一にけしかけた言葉だが、それはウソではない。

(好きよ、幸一君。あなたが望むことなんだから……)
幸一の未来に賭ける啓子は抗う代わりに下から吸い付き、舌を絡ませる。
ファースト・キスはどんな味なのか?そんなことを考える間も無く、「あ、う、う、せ、先生……」と驚く幸一を「す、好きよ……」と抱き締め、唇をぴったりと合わせた。更にねっとりとした口づけに変わっていく。

(続く)

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