浅川健太郎の告白-第5話 1990文字 バロン椿

浅川健太郎の告白-第5話

私、浅川(あさかわ)健太郎(けんたろう)は46歳。会社は中堅だが次長。一応名前の通った私立大学卒だが、自慢する程ではない。
こんな私にも、いくつかの女性遍歴がある。
内緒にして頂くことを条件に、こっそり貴女だけにお話するので、笑わずに最後までお聞き下さい。

作家名:バロン椿
文字数:約1990文字(第5話)
管理番号:k143

妙な告白?

翌朝、午前6時。牛舎の掃除を始めたが、糞尿の臭いが酷く、「やってられねえ!」と投げ出したくなる。そんな時、ジャージ姿の奥さんが近寄ってきた。しかし、昨晩のことが恥ずかしくて、こちらから挨拶なんてできない。下を向いていると、「おはよう」と向こうから声を掛けてきた。
そこに、パートのおばさんたちもやって来て、「おはよう」、「子供が熱を出して」、「大丈夫?」といった家庭的な話や、「どうしたの?やつれて」、「えっ、うそ」、「あら、お楽しみだったの?」ときわどい話など、牛舎は賑やかになった。もう個人的な話はできないが、私は奥さんのことが気になって仕方が無い。
夏でも高原の朝は涼しいが、10分もすれば汗が出てくる。それが20分経ったら、シャツは汗まみれ。その時、「頑張るわね」と奥さんの声。ハッとして顔を上げると、首筋に流れる汗をタオルで拭う彼女が「好きになっちゃったみたい」と微笑んでいた。「えっ?」と聞き返したが、「いや、もう言わない」と笑って、臑を蹴ってきた。
そんな牛舎の掃除も、午前8時を回ると大方片付き、「お疲れ様」とパートのおばさんたちは次々と帰っていく。

私は最後の仕上げとして、きれいになった牛床に稲わらなどを敷き詰めていた。「臭いわね」と奥さんが私の汗びっしょりのシャツを指差し、笑ったが、そういう彼女も汗や糞尿などにまみれて酷い臭い。「同じだよ、おばさんも」と言い返すと、「『おばさん』なんて酷い」とお尻をパーンと叩かれた。
もう昨晩のことを気にして下を向く必要はない。「じゃあ、何て呼べばいいの?」と生意気なことを言うと、タオルで顔を拭いた奥さんは「ははは、いいわよ、そんなこと。それより、うちでシャワー浴びなさいよ」と管理人の宿舎を指差した。
建物自体は木造2階建てで大きくないが、風呂場は泥だらけになったまま入れるようにと、母屋とは別に造られ、しかも複数人がシャワーを浴びれるようになっている。
でも、着替えが無いからな……私がぼんやりとそこを覗き込んでいると、「これ、旦那のものだけど」と奥さんがTシャツやパンツ、ジャージなどを入れた籠を用意してくれた。それで何も心配なくシャワーを浴びたが、生き返るようで、本当に気持ちが良かった。

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翌日以降も、牛舎掃除の度に、奥さんと色々と話をするようになった。
「ははは、そうなのよ。健ちゃんもそう思うでしょう」
「そうか、そうなのか。よく知っている」
話題はアイドルや社会問題もあるが、大概は、
「ダメよ、そんなんじゃ」
「えっ、だって分からないよ」
「女の子にはもっと積極的に迫らなくちゃ」
と奥さんからの「恋愛のうんちく講座」。たわいも無いものだが、とても楽しい時間だった。
しかし、片付けているとき、奥さんが「ああ、つまらない」と呟くことがあった。気になって、「どうしたの?」と聞いたが、「健ちゃんには関係ないことよ」と答えてくれなかった。だけど、気になる。
それで、シャワーを浴びた後、代わってシャワーを浴びる奥さんに、「ねえ、何がつまらないの?」としつこく聞くと、「健ちゃんに言うことじゃないけど、結婚して15年も経つと厭きるのよ」と、夫婦の関係のことを話し始めた。

確かに、そんなことは自分には分からないことだ。しかし、笑顔の無い奥さんは嫌だ。それで、「でも、一緒にスナックに飲みに来るじゃない」と言ったが、逆に「ふぅー」とため息をついた奥さんに「それでドキドキするの?」と言い返されてしまった。
言わなきゃよかった・・・気まずい空気に、私は視線を逸らしたが、「健ちゃんと居る方がよっぽどドキドキするのよ」と妙なことを言い出した。「えっ」と思って顔を見ると、フフッと笑った奥さんは「セックスもすっかりご無沙汰だし、いまさら、あの人としたくもないし」と妖しい笑いを浮かべている。
何と答えていいか、言葉も見つからず、ドギマギしていると、「でも、健ちゃんとなら、どうなってもいいかなと思っているのよ」とも言う。揶揄われているのか、何だか分からないが、顔が火照る私に、「でも、そんな勇気はないか……」と言い残し、奥さんはシャワーを浴びるため浴室に入っていった。
その晩もスナックに行くと、奥さんは旦那さんと一緒に来ていた。私は小さく手を上げて、「こんばんは」の合図を送ると、にっこり微笑んでくれた。だが、それを見ている奴がいる。
「おい、お前、しゃれたことをするじゃないか」
あべちゃんに背中を叩かれた。突っ込まれるかと思ったが、「さあ、ビールだ」と、彼の頭の中は飲むことだけ。
私は生ビールを一口、あとは、チーちゃんとアッちゃんに捕まり、チークダンスの連戦。奥さんとはダンスをするチャンスが無かったが、「健ちゃんとなら、どうなってもいいかなと思っているのよ」という言葉が頭から離れず、宿舎に帰ると、トイレに隠れてオナニーをしたことは言うまでもない。

(続く)

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