アナルフリーダム-第11話
夫の不倫を知った私は茫然自失のまま万引きしてしまうが、ある男性に救われる。
人生に絶望した私は、沖縄の彼の住まいに招待され美しい女性と出会い、生まれ変わる。
作家名:優香
文字数:約2900文字(第11話)
管理番号:k133
夫に、“愛してる”と言われた記憶はなかったし、言った記憶はない。
元恋人には何度も言われたし、何度か言わされた記憶はあったが、これほどまでに自然に、心から素直に言葉にした事はなかったはずだった。
元恋人に対する想いが愛情であったのか、と想い起こして自問すると、ただ生まれて初めてセックスし、愛しているからその男性とセックスする、その関係を継続していたので、愛情と感じていたのではなかったか。
愛していると言われ、言わされたので、それが暗示になっていたのではなかったか。
楓に言われたからではなかった。
3時間前に出遭ったばかりなのに、これ程までに楓が愛しかった。
肉体と性欲を互いに満たし合い、満たされ合ったから、愛情が生まれたのだろうか?
もっとも、普通の男女でも同様だろう。
小説や映画のように、愛し合うようになってからセックスするのではなく、出遭ってすぐにセックスして、それで愛情が芽生える事だってあり得るだろう。
空港で初めて楓を視た瞬間に、心が激しくときめいた。
男性に対してもだったが、女性に対しても、一目で憧れを抱くなど、かつて一度もなかったし、女性の自分が女性の楓に恋をするなど、考えた事もなかった。
空港で初めて楓に遭って一目惚れし、肉体を、女性器を、そして肛門を愛撫し、愛撫されてエクスタシーを貪り合った処か、浣腸し、排泄さえ晒し合ったのだ。
愛情なくしては出来ない、これ以上深い仲などあり得なかっただろう。
彼と楓は?
全裸で一緒に暮らしているのだから、勿論セックスもしていて、さっき、楓は“何時もは彼におねだりする”と言ったように、彼に浣腸され、排泄さえ晒しているのだから、普通の男女よりはるかに深く愛し合っているのだろう。
楓は、私を愛していると言った。
先刻、ベッドで彼は楓と一緒に私の乳房を愛撫してくれた。
たった今も、私が楓に浣腸され、排泄を晒し、楓の愛撫で肛門でのエクスタシーを極めた恥態を視て、勃起してくれていた。
そして楓に肛門を愛撫されている時、湯船に浸かっていて私にキスを施し、乳房を愛撫してくれた。
私は、肛門を楓に愛撫されてエクスタシーの絶頂を極めた時、想わず彼の首に抱き着いていた。
楓は嫉妬しなかったのだろうか?
ふと、私自身、女子学生を妊娠させたと聴いた時、夫に対してさえ、憤りも、女子学生に対する嫉妬も覚えなかった事を想い出した。
私は、生まれて以来、好意を抱いたのが、元恋人が初めてだったし、彼に対して嫉妬心を抱くような事象はなかった。
さらに、今、こうして楓に対する深い愛情を認識した時、元恋人に対する想いが果たして愛情と呼べるかどうかも定かではなくなっていた。
また、夫と女子大生に対して嫉妬心が起こらなかったのは、恐らく、その時点で夫に対しての愛情が既に醒めていたからではなかったか。
或いは、夫に望まれて結婚はしたものの、元恋人同様、夫に対して愛情を抱いていたかさえも、今となっては肯定は出来なかった。
もし、私が、彼とセックスする事になったら?
私は、彼と楓が愛し合う関係である事を前提で、楓と愛し合ったのだから、彼と楓がセックスする事になっても、勿論、嫉妬心は起こらないはずだ。
楓は嫉妬しないのだろうか?
ここに来てからの経緯の延長で、私は彼とセックスする事になる予感があった。
楓は?
彼は?
それを承知の上で、或いは、そのつもりで私をここに招いたのだろうか。
朧げにそんな想いが取留めもなく浮かんで来るが、今は、心から純真になれて満ち足りているからだろうか、楓が私を愛していると言ってくれた事も、私の心の中に素直に芽生えた楓への愛も、そのまま受け容れるだけであった。
「オーイ、晩餐の準備が出来たぞ」
彼の呼び声で我に返るまで、私は楓との愛の夢現の中にいた。
「行こう。お腹空いたね」
「うん」
濡れたままで、楓と手を取り合ってキッチン脇のドアを出る。
ウッドテラスがあり、淡い照明が掲げられていた。
ウッドテラスは砂浜の上にあり、その向こうに渚があり、さやかな波が寄せては返していた。
海は夕陽が沈んだ後で、既に暗く澱んでいたが、それでもサンゴ礁のコバルトブルーは残っていた。
外?
他人に視られる?
「は、恥ずかしいっ」
一瞬そう感じて、裸身を折り曲げ、しゃがみ込んだ。
「素っ裸でも大丈夫よ。ここはプライベートビーチなの。こっちは断崖絶壁、こっちは5メートルのフェンス。この沖1キロは遠浅の珊瑚礁だから船なんてほとんど近寄って来ないし、怪しそうな船がいたら中に入るの」
楓の言葉に一安心したが、先ほどあれだけの痴態を晒したのに、正気に戻ると、やはり彼の視線を意識してしまう。
ふと気付くと、楓も彼も日焼けしているのに水着の跡がほとんどない。
やはり楓が言ったように、二人はここで何時も全裸なのだ。
彼が冷やしたワインを開け、グラスに注ぐ。
「亜由美さん、愛してるわ」
「私も、楓さん、愛してる」
「素敵な二人に乾杯」
私と楓が“愛してる”と言葉にした、それを最初から知っていたかのように微笑む彼がグラスを掲げ、楓と私が裸身を抱き合った。
「イキ過ぎて喉がカラカラよ。お腹も空っぽ」
楓がワインを一気に呑み干した。
私も同様だった。
「ワイン、美味しいわ」
楓とワインを注ぎ合う。
彼がワインを片手に、起こした焚火の上の網に伊勢エビ、白身魚、アワビ、サザエ、ハマグリをトングで並べる。
海辺育ちの私の大好物ばかりだ。
楓が大きなプレートに山盛りの生野菜を皿に取り分け、ドレッシングを振り掛ける。
採れ立てであろう、野菜も美味しくて、お替わりをねだる。
夫と暮らした日々、独りで過ごした日々の、料理の数々が、何と味気なかった事か。
昨日までの私と違う。
心の底から楽しい。
こんな開放的な気分になったのも、恐らく生まれて初めてだった。
海鮮の焼ける香ばしい匂いが立ち上がる。
彼が焼けた物からプレートに載せる。
「彼って料理が好きなの。暇だから朝から晩まで料理してるのよ。おかげで私は何も作れない」
楓が無邪気に笑って、彼の腕を打った。
「お前は傍にいてくれるだけで、何もしなくて良いんだ」
彼が楓を抱き寄せ、頬にキスをする。
楓はどう観ても20歳くらい、彼は50歳くらいだろう。
いずれ、ここにいる間には二人の関係も判るだろう。
今は何も詮索せず、二人と一緒にいる自分を愉しもう。
そう感じた。
夜の帳がウッドデッキを完全に包み込み、天の川銀河がくっきり姿を現した。
ワインが2本空になった。
「海に入ろう」
楓が私の手を取った。
一緒に海に浸かる。
火照った裸身に冷たい海水が心地良かった。
「夜光虫だわ」
海面に光の帯が出来た。
「知ってるの?」
楓が私に抱き付く。
「もちろん。私、海育ちだから。子供の頃、夜でも良く海に入ったの。洋服来たままだったけどね。ああ、気持ち良いわ」
楓と抱き合って観上げる満天の銀河、水平線には真っ暗な空と海を隔てて無数に点在する漁り火。
幼い頃を想い出す。
感動に涙がこみ上げる。
「亜由美さん?泣いてるの?」
楓が美貌を傾げた。
「うん。こんなに幸せで良いのかな?って」
「私もよ。亜由美さんに出遭えて、すごく幸せ」
楓とキスを貪り合う。
私達は身体が冷えるまでずっと海に佇んでいた。
(続く)
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