我愛你-第4話 3470文字 バロン椿

我愛你-第4話

39歳の主婦、高木弥生は4つ年上の夫、壮一、一人息子で中学一年の智之と小田急線新百合ヶ丘の一戸建てにつつましく暮らしていた。
だが、大学の先輩、大手商社に勤める寺田麗子の昇進祝いの会で、中国からの研修生、27歳の王浩と出会ってから、人生がガラッと変わってしまった。
王は優しく、かつての夫のようにグイグイと引っ張ってくれる。そんな王と男女の関係になった弥生は彼とは離れられなくなっていた。
編集注※「我愛你」は中国語で (あなたを愛しています)の意味

作家名:バロン椿
文字数:約3470文字(第4話)
管理番号:k098

車は狛江から多摩川沿いを下り、間もなく「等々力渓谷」の標識が見えてきた。そこは東京23区唯一の渓谷。谷沢川で構成され、30カ所以上の湧水が発生し、都会の雑踏を忘れさせてくれるような自然あふれる空間が広がっている。

「よく知っているわね、こんな所を」と弥生が感心すると、嬉しくて堪らない王は駐車場に車を停めると、「ミィシォン、歩きましょう」と弥生の手を取り、グイグイ引っ張って等々力渓谷公園に入っていった。
外は汗ばむほどの陽気だが、渓谷内はヒンヤリして気持ちいい。
川沿いの遊歩道を歩いていると、下からせせらぎが聞こえてきた。

「ワンさん、降りてみましょう」と、今度は弥生が手を引き、川辺に降りると、王は弥生を「ミィシォン」と呼んだ。笑顔の彼の目はとても澄んでいる。「はい」と答えた弥生の目も彼に劣らず澄んでいた。
「いい音」と弥生が呟くと、「そうですね」と王が。続いて、「きれいだ」と王が、弥生は「ええ」と答えた。

日本に来て、言葉に苦労したり、生活習慣の違いに戸惑ったり、色々なことがあったが、こんな素敵な人と巡り逢うとは……王は天にも昇る気分だった。
その日、新百合ヶ丘駅で「楽しかったわ。再見(さようなら)」と車を降りる弥生に、王は気持ちを込めて、「我愛弥生(弥生、愛しています)」と言った。

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それからと言うもの、LINEに入る王からのメッセージは愛を訴えるものが多くなった。「我愛弥生」は勿論、「ミィシォン、何をしていますか?私はミィシォンのことばかり考えています。一緒にいれたら、どんなに素晴らしいか……ミィシォンが隣にいないことがとても寂しい」とか、ラブレターの教科書からパクったのかと思えるような、甘い囁きに満ちたメッセージまで送られてくるようになった。

口付けは突然に

弥生は王と何度かデートを重ねていた。
昔はそうだった……
夫と出会った頃、180センチの彼はスポーツマンで、週末になると「さあ、テニスだよ」、「今日は高尾山にハイキングだ」と色々なところに連れて行ってくれた。しかし、結婚し、仕事が忙しくなってからは、中々そのようなことは出来なくなり、今では、「疲れた」と寝転ぶばかり。

一方、「ミィシォン」と優しく呼んでくれる王は、「ドライブしましょう」、「ここを歩きましょう」等とグイグイ引っ張っていってくれる。
そんな彼と一緒にいると、このままでは引き返せないところまで行ってしまうと、複雑な気持ちを抱えていたが、週末になると「会いたい」と思いが募り、日々、交わす王とのメッセージはどんどん愛情深いものになっていった。

日々の移ろいは早く、7月中旬。
「毎日、暑くて」
「本当。ひと雨くればいいのに」
そんな会話が交わされる、暑い日なのに、「明日は朝からだよ」と、期末テストを終えた息子の智之はサッカーに夢中。
「はいはい、分かりましたよ」と、弥生は毎日、お弁当を作る。そして、今日も「行ってきます!」とユニホームとお弁当を抱えて飛び出していった。

夫も出掛け、後は弥生の時間。片付けを済ませ、白いくるぶしまで隠れるノースリーブのワンピースに着替えると、ピンクのスウェード調の厚底ミュールを素足につっかけ、サングラスをかけた弥生は今日の待ち合わせ場所、同じ小田急線沿線の鶴川駅に向かった。

そこは小さな駅だが、駅前には和光大学のポプリホールがあったり、市民図書館もある。だから、知り合いに会っても、「ちょっとミニコンサートがあって」とか、「図書館で調べ物が」など、いくらでも言い訳ができる。

「ふうぅぅ……暑い……」
午後1時前に鶴川駅に降り立った弥生は思わず、そう呟いてしまった。せっかく涼しい格好をしてきたのに、額には薄っすらと汗が滲んでいた。
一方、「はーい!」と車から手を振る王はTシャツ。やっぱり27歳。若さが輝いている。

今日の行き先は町田市の尾根緑道。
「蝉の声が凄いわ。まるで森の中を歩いているみたい」
「そうですね」

木々が多く、日差しを遮ってくれるが、やはり暑い盛り。行き交う人は少なく、手を繋ぎ遊歩道一杯に広がっても迷惑をかける心配はない。そして、木々が途切れる場所に来ると、遠くに山々が見えてくる。

「あ、あれは丹沢かしら」と弥生が黒い山を指したが、「富士山は?」とその奥を見つめる王が頬を寄せてきた。慌てた弥生は「ふ、富士山は……」と体を捩って離れようとしたが、逆に抱き寄せられ、顔を背ける間もなく、唇を合わされてしまった。

「あらら……」
二人の様子を見ていた遊歩道を歩く人たちが笑っている。弥生は恥ずかしくて、「ワンさん、ダメ……」ともがいたが、彼の力は強くて逃れられない。ぴったりと合わさった唇、そして、あ、あ、私、私、もうダメ……と理性の箍が外れていく。

風が吹き抜け、木々の葉が擦れる音が聞こえる。もう誰に見られたって構わない、私はワンさんを愛しているのだから……と王を受け入れた弥生は「ワンさん、ワンさん、好きよ、好きよ、愛している……」と逆に吸い付いていった。
帰り道、暑かった日差しも心なしか柔らかく感じ、王に寄り添って歩く弥生の心には幸せが満ち溢れていた。

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もっと親しくなるには……

しかし、王と会えるのは土曜の午後だけ。それも、弥生が午後4時、遅くても午後5時には家に帰らなくてはいけないから、時間は限られている。それに、自宅のある新百合ヶ丘から近くては、知り合いに見付かってしまうリスクがある。かといってあまり遠くまで行くと、そこで過ごす時間が無くなってしまう。だから、出掛けられるのは、車で30分くらいの所に限られる。

同じ川崎市なら、宮前区の県立東高根森林公園、麻生区の王禅寺ふるさと公園など、自然が豊かで散歩するには向いている。また、隣の町田市にも、薬師池公園などがあるが、どこも公園だから手を繋ぎ、木陰で口付けをするのが精一杯。それ以上のことをするなら……

8月下旬の火曜日。夕食の片付けを終えた弥生がスマホを手にすると、王からのメッセージが届いていた。
「晩上好、弥生(こんばんは、やよい) 我今天只在想你(今日はあなたのことばかり考えていた) 想見、很想見你(会いたい、とてもあなたに会いたい)」

読みながら、彼への思いが込み上げてくる。赤らむ顔を夫に見られたくない弥生は階段を駆け登り、二階の寝室に籠った。そして、ふぅーと大きく息を吐き、自分を落ち着かせると、最近、語彙の増えてきた中国語で「我也想見你(私もあなたに会いたい) 我想見你(あなたに会いたい)」とまで打った。でも、これ以上は、中国語では伝えたいことが上手く言い表せない。どうしようか、何て書こうかしら……と迷っていると、「你是一个非常重要的人(あなたはとても大切な人です)」が、続いて「我要你当妻子(あなたには妻になって欲しいと思っています)」と返ってきた。

ワンさん、ワンさん、何てことを言うのよ。私、私、結婚しているのよ……弥生は胸が苦しくなってきたが、もはや、そんな道徳的なことで自分を縛ることは出来なくなっていた。
「明白了(分かりました) 下周六我装作你老婆!(今度の土曜日、私はあなたの奥さんになります!)」と打つと、寝室を出た。リビングでは、夫がテレビを観ていたが、階段を降りる足音に気が付き、「何をしていたんだ?」と振り向いた。

その瞬間、理性が「そんなことをしてはダメ、ダメよ……」と警鐘を鳴らしてきたが、顔を青ざめながらも、「あ、あの、今度の土曜日、午後から出掛けたいんですが……」と言ってしまった。

すると、当然のように「何の用事があるんだ?」と夫は仏頂面で聞いてきた。それは普段と変わらぬものだが、心やましい弥生には不機嫌さに映り、「て、寺田さんのマンションで女子会なんです」と声が震えていた。ところが、あにはからんや、「寺田って、あの商社の次長になった寺田麗子さんか?」と夫の顔が変わり、仏頂面はなくなっていた。

サラリーマンの夫にとって、「商社の次長」の肩書きは免罪符のようなもの。「はい」と答えると、あっさり「いいよ」と許してくれた。
後は、「遅くなるのか?」と聞かれ、「はい、帰りは10時を過ぎると思いますが」と言っても、「どこだっけ、彼女は?」と訊ねるだけで、咎めもしない。それどころか、「調布です」と答えると、「狛江からバスか……まあ、羽目は外すなよ」と言っただけで、それ以上は何も聞かず、テレビの方に視線を移していた。

「すみません。晩ご飯の仕度はしておきますから」と弥生は顔の強張りが消え、「ああ、よろしく」と夫は返事をしたものの、振り向きもしなかった。

(続く)

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